幼なじみじゃ、いられない。
そう、『会いたい』と急に誘ってしまったのはあたし。
今日は特に会う約束もしてなくて、火曜日だからピアノのレッスンもない。
それこそ1日待てば明日はレッスンで、約束せずともすぐに会えたかもしれない……けれど。
「あ、うん、えっと……ね……」
ぎゅっと膝の上の手を握りしめて、思い出すのは今日のこと。
『お前の顔見に来ただけだって』
『俺のことしか見てなかったくせに』
真っ直ぐにあたしを見る冷たい目と、思いがけない大地くんの言葉。
今まで何年も無視してきたくせに、急に近付かれて戸惑わずにはいられなくて。
このままじゃ、頭の中が大地くんのことでいっぱいになりそうで……。
だから、りっくんに会いたくなった。
今日のことを素直に話してしまおうか迷う。
だけど──。
「別に何もないの。何もないけど、会いたくなっちゃって」
大地くんの気まぐれに、これ以上心を乱されたくない。
そう思ったあたしは、カップを両手で包み込むように持って、笑った。