幼なじみじゃ、いられない。


大地くんと、椎名さん──。


ふたりは向き合って、椎名さんは微笑んで、何かとても楽しそうに話している。


そうだ、大地くんの家もこのすぐ近く。

前にも偶然、こうして出会してしまったことがあって、今さら動揺することなんかじゃない……のに、


次の瞬間、椎名さんは冬哉の頬に手を伸ばして、そっと背伸びをする。

ゆっくりと近付いていく、ふたりの距離。


それに対してあたしは、一歩後ずさる。

そして、ふたりの唇が重なろうとしたその時、踵を返して走り出した。



大地くんのことなんて、もう関係ない。

だってあたしには、りっくんがいる。


りっくんはいつだって優しくて、とても大事にしてくれて、今日なんてすごく楽しくて幸せだった。

あたしはもう、りっくんのことが好き。


それなのに──。



「っ、はっ……」


りっくんの家までは戻らずに、少ししたところで足を止める。

だから、それほどの距離は走っていない。

なのに、まるで少し長い距離を走ったみたいに、息が上がって胸が苦しい。
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