幼なじみじゃ、いられない。
「あ、やっぱひなだ」
あたしの顔を見るなりそう言って微笑んだのは、
「りっくん!」
あたしが声をかけると、「お帰り」と先生が続けて声をかけた。
うちの制服とは別の赤いネクタイのブレザー。
染めていなくても茶色っぽい髪に、整った優しい顔立ち。
まるでディ○ニー映画の中から出てきた王子様みたいな彼は、空井 律(うつい りつ)。
あたしと同い年の、ピアノの先生の息子。
幼稚園こそ違ったけれど、小学生から高校生になるまでずっと一緒だった。
あたしとは比べ物にならないほどピアノが上手で、ピアノだけじゃなくヴァイオリンも弾けて。
おまけにとても頭が良くて、国立大附属高校へと進学した。
ピアノを先生のところで習っていなかったら、きっとあたしとは住む世界が別の、本当に王子様みたいな男の子。
「もうそろそろ終わり?ていうか、この後も誰かレッスンに来んの?」
「今日はひなちゃんで終わりだけど」
りっくんの質問に先生が答えると、
「じゃあちょっと部屋貸してよ。ひな、残れる?」
爽やかに問いかけられて、あたしはコクンと頷いた。