あの日のままで
時はあっという間に過ぎ、3月になった。
(進路どうしよう。)
私は入学当時の勉強への熱意はいつの間にやら消え去り、遊びにふけっていた。
周りはちらほら志望校を決め、勉強に力を入れる人が出てきた。
『志望校決まったのか?』
桜庭先生だ。
「まだです。迷ってて。」
『相談乗るぞ。行きたい地域は?あと…。』
いくつかの大学を紹介してもらった。やっぱり桜庭先生は頼りになるなぁ。そう思った。それと同時に、現実を突きつけられた気にもなった。急に将来への不安が押し寄せてきた。気づいたら涙が頬を伝っていた。
『大丈夫か?』
心配そうに私を見ている。
「全然大丈夫です。」
私は泣顔を見られないよう背を向けながらそう返事した。
ぎゅっ。背中があたたかい。とても安心する。
温もりを体全体で感じる。
(え?どういうこと?)
私は頭が真っ白になった。
5分くらいそのままでいたのだろうか?もっと時間は経っていたのだろうか。
「え、ちょっと桜庭先生?」
返事はなかった。
「ちょ、ちょっと。」
私は私を包んでいた手をほのき先生のそばを離れた。
「先生、どうしたんですか?」
先生はうつむいたままだ。
「先生?」
やっと先生は顔をあげた。
『ごめん。深沢が泣いてるの見たら我慢できなくて。俺…。』
私は何が何だか分からなかった。でも、嫌な気はしなかった。というか、嬉しかった。幸せだった。あの大きな温もり。温かな手。もう一度触れたいな。そんなことまで思ってしまった。
でも、だめ。先生なんだから。分かってるんだから。
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