敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「それよりも、せっかくだから匡の飛行機が飛び立つところでも見ていけば? ほら、子供の頃に三人でここの展望デッキから飛行機を見ただろ」
「そうだね。懐かしい」
ぼんやりとだけど覚えている。離陸する飛行機がかっこよくていつまでも見ていたことを。
今でこそ飛行機は私にとって恐怖の対象でしかないけれど、あの頃は私の心をわくわくさせるものだった。
兄と別れたあと、私は懐かしい記憶を辿るように屋外展望デッキに足を運んだ。
空は青く澄んでいて太陽の光も当たってはいるが、海から吹いてくる風が冷たいせいかあまり人はいない。
眼下にある駐機場で待機している飛行機の中から匡くんが搭乗する機体を探す。行先と出発時刻から兄が登場ゲートを調べてくれたので、そちらの方向に視線を向けた。
そこに匡くんの航空会社〝JWA〟と書かれた機体を見つける。おそらくあれに匡くんが乗っているのだろう。
時折吹き荒れる冷たい風に体を縮こませながら出発を待っていると、隣に小学校低学年くらいの男の子とその父親らしき男性がやって来た。
男の子はにこにこしながら飛行機を眺め、父親の首にはカメラが下がっている。
「あ、お父さん。飛行機動いたよ」
男の子が指を差した先にあるのは、匡くんが搭乗している機体だ。
ゆっくりと動き始めた機体は搭乗ゲートを離れて向きを変えると、ゆるやかに地上を移動していく。機体のコックピットあたりをじっと見てみたけれど、当然だが匡くんの姿は見えない。
でも、これからあの機体を飛ばすのは彼なのだろう。