敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
男の子の父親が首からぶら下げているカメラを構える。機体がいよいよ滑走路に進入したのだ。
エンジンの音が徐々に上がっていき、離陸に向けた滑走が始まる。
滑走路上でぐんぐん加速していく機体を前に、男の子のテンションもぐっと上がり「すげー」「かっこいい」と叫ぶ。その姿が、子供の頃の自分と重なった気がして思わずくすりと笑ってしまった。
兄と匡くんに付いてきて、この場所からずっと離陸の瞬間を見ていたときの気持ちが蘇るようだ。
あのとき隣にいた匡くんが今は飛行機を飛ばしている側の人なのだと思うと胸に熱いものが込み上げてくる。
「匡くんはやっぱりかっこいいなぁ……」
滑走を続けていた機体の頭が上がり、滑走路を離れて飛び立つ。どんどん上昇しながら加速を続け、やがて青空の中に吸い込まれるように機体が小さくなっていった。
*
匡くんの飛行機の離陸を見届けたあとは空港内でお昼ご飯を食べることにした。
どのお店も美味しそうでとても迷ったけれど、バンズに挟まるボリューミーなお肉とトロトロのチーズに惹かれてハンバーガーを食べることにする。
午後は特に用事がないので席についてのんびりと頂いたあとアイスコーヒーを飲みながら適当に時間を潰していると、バッグにしまってあるスマートフォンが着信を知らせた。
取り出して確認すると名前は表示されておらず、電話番号だけが表示されている。その数字の並びには覚えがあり、スマートフォンを持つ手が小刻みに震えた。