敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
会話を聞く限り、おそらくふたりは結婚式を挙げたばかりの夫婦で、沖縄には新婚旅行で滞在しているようだ。
明日は美ら海水族館に行くから今夜は早く寝ようねと言っている妻に対して夫が、ちょっとだけなら夜更かししてもいいんじゃないかとさり気なく夜のお誘いをしている……という会話に聞き耳を立てているわけじゃない。
席が近いしふたりの声が大きいから、私の耳が勝手に彼らの会話を拾ってしまうのだ。
それに私だって新婚夫婦のラブラブな会話なんてまったく聞きたくないんだからね、という空しさをぶつけるように箸でゴーヤーをたくさんつまんで口に放り込む。苦い。
それでもむしゃむしゃと咀嚼しながら、ふと蘇ったのは三カ月前の苦い記憶。
六月上旬――梅雨入りしたばかりのひどく湿気を帯びた不快な日に、私は区役所に離婚届を提出した。
結婚期間は一年にも満たないスピード離婚。原因は元夫の不倫という一方的な裏切りだ。
「……嫌なこと思い出しちゃった」
まさか自分に〝バツ〟が付くとは思いもしなかった。この先一生それが付いてくるのかと思うと落ち込む。
二十七歳でバツイチかぁ……。
こんな女と誰が恋愛したいと思うだろう。いや、そもそも私はもう恋愛も結婚もこりごりだ。二度としたくない。
だから私はこれからの人生を仕事に生きると決めている。