敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

「知らないよ、そんなこと」

 私の肩を掴んでいる和磨の手にはいつの間にか力が抜けていたので、勢いよく振り払った。

 今の和磨は少しおかしい。関わらない方がいい。

 普通の路地ということもあり気が付くとまわりに野次馬ができていた。和磨もそれがわかったのか、これ以上はしつこく迫ってはこない。

「もう会いに来ないで」

 私はその場から走って逃げた。


 けれど次の日も和磨は私の前に現れた。

 仕事終わりに待ち伏せされて、昨日のように復縁を求めてくる。無視して歩き続けたけれど駅までしつこく着いてくるので「警察呼ぶよ」とバッグからスマートフォンを取り出したところ大人しく去っていった。

 明日も待ち伏せされていたらどうしよう。この様子だと和磨はしばらく私にしつこくつきまとってきそうだ。

 こわくて外に出たくないけれど、仕事があるのでそういうわけにもいかない。いったいどうすればいいんだろう……。

 不安を抱えたまま気が付くとマンションに到着していた。玄関の扉を開けると、久しぶりに見る靴を見つけてホッと安心する。

 海外へのフライト業務だった匡くんが四日振りに帰ってきたのだ。

 リビングに入ると彼はキッチンに立って料理をしていた。私の姿を捉えて「おかえり」と表情を緩める。それを見たらなんだか泣きそうになった。というよりも泣いてしまった。
< 122 / 156 >

この作品をシェア

pagetop