敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「どうした。帰宅早々なに泣いてんだよ」
キッチンから匡くんが駆け寄ってくる。俯いてしくしくと泣いている私の顔を覗き込んだ。
「またなにかあったのか」
「ううん、大丈夫」
ふるふると首を横に振る。
和磨のことは匡くんには話さない。ただでさえ海外フライトを終えたばかりで疲れているのだから、私のことで余計な心配はかけさせたくなかった。それなのに――。
「なにもないわけないだろ」
「わっ、ちょっと匡くん⁉」
私の体を軽々と抱き上げた彼はソファに向かうとそこに腰を下ろした。膝の上に私を乗せると、向かい合う形になる。普段は高いところにある彼の顔が、今は同じ目線のとても近い距離にある。
この体勢はちょっと恥ずかしい。けれど、匡くんの手が背中に回っているので逃げることもできない。
「話聞くから、なにがあったか教えて」
落ち着いた低い声に尋ねられて、私は視線を泳がせる。それでも頑なに口を閉じていたら、不意に匡くんの手が私の頬を優しく包み、腰のあたりに添えられている手が私の体を引き寄せる。
次の瞬間には唇を塞がれていた。
突然のキスに驚いて目を見張ると、匡くんの唇がゆっくりと離れていく。ぎゅっと抱き締められて、彼のごつごつした大きな手が私の背中をさすった。
まるで小さな子供あやすときのような優しい手つきに、昨日から続いている不安と恐怖が少しずつ和らいでいく。
匡くんに心配をかけたくないけれど、彼にしか頼れない気がした。