敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
ためらいつつも和磨のことを打ち明ける。
「……昨日、私の仕事が終わる時間を狙って元夫が会いにきたの。今日も駅までしつこく着いてきて」
そこまで話したところで匡くんが突然私を引き離し、険しい表情で見つめた。
「どうしてそれをもっと早く俺に言わないんだ」
「だって匡くん昨日はいなかったから」
そう返せば匡くんはどこか悔しそうに表情を歪める。
「それで、どうして元夫が会いに来たんだ。しかも二日連続で。泣いてるってことはなにかされたんだろ」
「よりを戻したいって言われた」
「は?」
匡くんの眉間に深い皺が寄った。
「どういうことだ」
「私にもよくわからないよ」
やり直そうと必死に私を説得してくる和磨を思い出す。切羽詰まった様子が異常に感じて恐怖を覚えた。
私を好きだからやり直したいわけではないと思う。きっとまたなにか裏があるはず。
「元夫に俺と結婚したことは言ったのか」
「言ったよ。そしたら今すぐ別れて戻ってこいって」
「めちゃくちゃだな」
匡くんは呆れたようにため息を吐き出した。
彼の言う通りだいぶめちゃくちゃなことを言っているのに、当の本人である和磨にその自覚はなさそうだった。当たり前のように私と復縁できると思っている異常性が和磨への恐怖をさらに煽る。
「杏、明日からは俺が車で送迎するから」
「え、でも匡くん仕事は?」
「休みだ。三日間しかないが、その間にもしもまた元夫が杏の仕事終わりを狙って現れるようなら俺がなんとかする」
「……ごめんね、匡くん。迷惑かけて」