敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
彼の手を煩わしてしまうことが心苦しい。本当は自分で解決させないといけないことなのに。
「迷惑になんて思ってないから心配するな。俺に任せとけ」
「匡くん……」
彼の優しく力強い言葉が頼もしくて、ついまた泣きそうになってしまった。匡くんは私の瞳に溜まっている涙を指先でぬぐいながらぽつりと言葉をこぼす。
「それにしても、やっぱりあいつには然るべき方法で責任を取らせるべきだな」
険しい表情を浮かべる匡くんはいったいなにをしようとしているのだろう。然るべき方法……そういえば以前も同じことを言っていた気がする。
「……殴るのはだめだからね」
念のため伝えると「そんなことするか」と、匡くんがすぐに否定した。
その夜、ベッドに入っても私はなかなか寝付けなかった。
明日も和磨が現れたらどうしよう。匡くんが送り迎えをしてくれるらしいけれど、やはり和磨に会うのはこわい。
目を閉じると和磨の顔が思い浮かぶのだ。必死な形相で『俺とやり直そう』と迫ってくる光景が脳裏から離れない。
「――杏、眠れないのか」
そんな私の状況に気付いたのか、ベッドの真ん中に置いてある抱き枕の向こうから匡くんが声を掛けてくる。
上半身を持ち上げた彼が、口元まで掛布団をかけて仰向けに寝ている私のことを見下ろす。
「眠れないならこっちおいで」
そう言うと匡くんは抱き枕を手に取り、ベッドの下に落としてしまった。同居が始まってから今日まで、眠るときには必ずあった境界線があっさりとなくなる。