敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
匡くんが自分の掛布団を少しだけ持ち上げて、そこに私が入ってくるのを待っている。同居初日は同じベッドで眠ることですらあんなに渋っていたはずが、今は誘われるように自然と匡くんのところに飛び込んだ。
恥ずかしい気持ちよりも不安な気持ちが勝った結果だ。
そんな私を受け入れてくれた匡くんは自身の腕を私の首下に差し入れて腕枕をすると、もう片方の手を私の背中に回してぎゅっと抱き寄せる。
ぴったりと密着した体にドキッと心臓が跳ねたのは一瞬のことで、徐々にホッとできる安心感に変わっていく。私も自分から匡くんの胸にすりすりとすり寄った。
昨日の夜も目を閉じると和磨の顔が思い浮かんであまり眠れなかった。広いベッドでひとりきり何度も寝返りを打っている間にカーテンの向こうが明るくなっていて、気が付くと朝を迎えていた。
でも今夜は匡くんが隣にいて、こうして抱き締めていてくれる。それだけで安心できて、目を閉じても和磨の顔が浮かんでこない。
正直とても寝不足なので、安堵できた途端に猛烈な睡魔に襲われる。これで今夜は朝までぐっすりと眠れそうだ。
「なぁ、杏」
頭上から匡くんの低い声が落ちてくる。今すぐにでも寝てしまいそうだった目をこじ開けて「なに?」と、顔を上に向けると思ったよりも匡くんの顔が近くて驚いた。彼は眉をひそめて難しい表情を浮かべている。
「お前は今どういう気持ちで俺の胸にすり寄ってきてるんだ」
「え?」
「自分からこっちに来いと抱き寄せたが、こうも可愛くすり寄ってこられると理性があっさり飛びそうになるんだが」
それはつまり私に欲情しているということだろうか……。