敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
誘っているつもりはなかったけれど、そう捉えられたのだとしたら恥ずかしい。私までそわそわしてしまい、首下と背中に触れている匡くんの腕に意識が奪われてなんだか心が落ち着かなくなる。
「やっぱり私、自分の布団に戻るね」
その方がいいだろうと思い彼の掛布団の中から抜け出そうとするも背中に回った腕が私を離してはくれない。
「いいからここで寝ろ」
「で、でも匡くん大丈夫?」
「大丈夫じゃないが耐える」
耐えられるものなのだろうか……。
しばらくお互いなにも言葉を発することなく沈黙が続く。このまま寝てしまえばいいものの目が冴えてしまって眠れない。
それは匡くんも同じようでなおさら気まずく、耐えられなくなった私は雰囲気を変えるためにそっと口を開いた。
「あ、あのね、匡くん」
「なんだ」
「今言うようなことでもないんだけど、四日前に空港で会ったでしょ」
「慎一の忘れ物を届けに来たときか」
「うん、それ」
私はこくんと頷いた。
「あのあと久しぶりに屋外展望デッキに行ったんだけど、寒かった」
「そりゃ寒いだろうな、この時期は特に」
違う違う。寒さの話をしたかったんじゃなくて……。
「寒かったけど、匡くんの飛行機が飛ぶところを見たかったの」
そう伝えると、私の背中に触れる彼の手がぴくっと動いた。
「離陸を見たの子供のとき以来だったけどやっぱり興奮するね。あんなに大きな機体が空を飛ぶなんてすごいし、それを飛ばしている匡くんのことかっこいいって思ったよ」