敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 元夫に裏切られて捨てられて、ぼろぼろに傷付いた私の心の拠り所は自分のネイルサロン。

 この場所があるから私はここまで立ち直ることができた。とても大切な私の居場所だ。

 ゆくゆくは二号店、三号店と増やしていき、人気のネイルサロンに成長させることが今の私の目標でもある。

 絶対に叶えてみせるぞと気合を入れてビールをぐびっと喉に流し込んだとき、店の扉がガラッと開いた。

「いらっしゃいませ」

 男性店員の声が店内に響く。現れたのは男女数名のグループだ。

 先頭を歩く男性が「ここ俺のお気に入りなんですよ」と、やけにはしゃいだ様子で店内を移動していく。カウンターの店長に声を掛けているところを見ると知り合いなのかもしれない。

 男性は短髪の黒髪に目鼻立ちのくっきりとした掘りの深い顔をしている。鍛えているのだろうか。紺色の半袖シャツの袖からは程よく筋肉がついて引き締まった二の腕が見える。

 彼以外は女性で、皆さんすらりと背が高く姿勢がいいし、身に着けている服や靴、バッグなどの持ち物はそんじょそこらの店で購入したものではない高級品だと一目でわかった。

 彼女たちの入店により、素朴な料理屋が三ツ星レストランに見えてくるほどだ。

 すると、開いたままの扉からもうひとり男性が遅れて姿を現した。

 高い背を屈ませるようにして暖簾をくぐり、のんびりとした足取りでお店に入ってくる。
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