敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
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「――じゃあな、杏。帰りも迎えにくるから、終わったら連絡しろよ」
「うん、ありがとう」
ネイルサロンの入るテナントマンションの前で、匡くんの運転する車が走り去っていくのを見送る。
彼に送り迎えをしてもらうようになって今日で三日目。昨日もおとといも和磨は現れなかった。私に会いに来ることをやめたのか、待ち伏せしていたけれど私がすぐに匡くんの車に乗り込むので声をかけられなかったのか、どちらかだ。
匡くんの休みは今日までで明日からまた仕事に出てしまう。そうしたらこの送迎もなくなるけれど、それを狙って和磨がまた現れたらどうしよう。
そんな不安はあるけれど仕事のときはなるべく考えないようにして開店準備に集中した。
本日最初のお客様は麗奈さんだ。午前十時からの予約のはずが、彼女にしては珍しく十分ほど遅れてやって来た。しかもなぜか血相を変えて店内に飛び込んでくる。
「ちょっと杏ちゃんひどいじゃない。どうして黙っていたのよ」
今にも私に掴みかからんとする勢いで詰め寄ってくる麗奈さんに圧倒された私は、自然と一歩後ろに下がってしまった。
「ど、どうしたんですか麗奈さん。なにかありましたか」
「なにかありましたか、じゃないわよ」
怒っているわけではないと思うけれど、私に物申したいことがあるのか麗奈さんの表情は険しい。
匡くんもそうだけれど整った顔立ちの人がそういう顔をすると迫力がありすぎるからやめてほしい。