敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 麗奈さんが目の前にある施術用のテーブルにトンと音をたてて両手をついた。こ、こわい。なんだかこれから取り調べを受ける犯人のような気分だ。

 もしかしたら知らない間に彼女の気に障るようなことをしてしまったのだろうか……。

 麗奈さんの尋問が始まった。

「私、今日はちょっと家を出るのが早かったせいか予約時間よりも早く着いちゃったの。だから時間を潰そうと思ってそこのカフェでお茶をしていたんだけど、誰に会ったと思う?」
「誰って……誰でしょうか」

 まったくわからない。すると麗奈さんがさらに私に詰め寄ってくる。

「藤野さんよ。前に来たとき杏ちゃんに話したわよね。うちの会社のエリートパイロット」
「えっ」

 もしかして、匡くんのことだろうか。帰ったと思ったらカフェに寄っていたんだ。そして麗奈さんと鉢合わせた……。

 なんとなく彼女が私になにを言いたいのかわかってしまった。

「藤野さんひとりだったから席をご一緒させてもらったの。今日はなにかこの近くで用事があるのかなと思って聞いてみたんだけど、奥さんがこの近くのネイルサロンで働いているから車で送ってきたんですって」

 思わずギクリとしてしまった私を見逃さなかった麗奈さんがさらに問い詰めてくる。

「この辺りのネイルサロンって杏ちゃんのお店しかないわよね」

 麗奈さんがズイっと私に顔を近付けた。

「もしかして、藤野さんの奥さんって杏ちゃん?」
< 132 / 156 >

この作品をシェア

pagetop