敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「……この前のときに言い出せなくてすみません。実は先月、結婚しました」
正直に白状すると、麗奈さんがふぅと息を吐き出す。
「やっぱりそうなんだ。あの藤野さんが選んだ人がどんな女性なのか気になっていたけど、まさかこんなにも身近にいたなんて」
麗奈さんが施術用の椅子に腰を下ろす。私もテーブルを挟んだ向かいの椅子に座り、ネイルケアの準備を始めた。
「素朴な疑問なんだけど」
頬杖をついて麗奈さんが尋ねてくる。
「藤野さんとどこで出会ったの? パイロットとネイリストだと普通に生活していたら出会わないでしょ。あ、合コン?」
「違います。私と匡く……」
「えっ、杏ちゃんって藤野さんのこと匡くんって呼んでるの。あの人のことそんな風に呼べるの杏ちゃんだけねきっと」
うっかり普段のように呼んでしまってちょっと恥ずかしい。けれど気を取り直して続きを話す。もう知られてしまったので匡くん呼びを続ける。
「匡くんとは実家が隣なんです。兄の友人でもあるから妹の私とも仲良くしてくれて」
「あ、そっか。そういえば藤野さん結婚相手は友人の妹って言ってたわね」
そう呟いたあと、麗奈さんは人差し指を顎にちょこんと当てて考えるような素振りを見せた。
「ということは、藤野さんがパイロットになるきっかけを作ったのは杏ちゃんなのね」
「えっ」
……私が?
身に覚えがないのできょとんとしてしまうと、麗奈さんが首を傾げる。
「違うの? でも藤野さんそう言ってたわよ。パイロットになるきっかけをくれたのは奥さんだって。杏ちゃんのことよね」