敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
思い出の展望デッキで



 杏を職場まで送迎するようになって今日で三日目。

 昨日とおとといは元夫が現れることがなかったが、どこかに身を潜めていた可能性もある。俺のことを警戒して杏に近付けなかったのだとしたら明日からのことが心配だ。俺の休みは今日までで、明日からは杏を送迎できない。

 だからどうしても今日中に解決させなければならない――。

 最後のひと口のコーヒーを飲み終えてから腕時計に視線を落とすと午前十時を過ぎていた。そろそろここを出て次の目的地に向かわないといけない。

 杏を送ったあと少しだけカフェで時間を潰そうと思っていたのだが、途中から小久保さんが現れて話をしていたらあっという間に時間が過ぎていた。

 まさかこんな場所で彼女に遭遇するとは思わず驚いたが、どんな用事があるのかはプライベートなことなので尋ねないことにした。

 一方で小久保さんは俺がなぜひとりでお茶をしているのか気になったらしく尋ねられたので、『妻がこの近くのネイルサロンで働いているから送ってきた』と正直に答えたのだが、そのあとの彼女のリアクションがものすごく驚ているようだった。

 あの反応はいったいなんだったのか……。

 まぁ今はそんなことはどうでもいい。

 カフェを出た俺は近くのコインパーキングに向かい車に乗り込むとカーナビに目的地の住所を入れる。

 ここからだと十五分ほど。ちょうど予約を入れている時間までには到着できそうだ。
< 137 / 156 >

この作品をシェア

pagetop