敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「あっ、藤野さん。遅いですよ、早く早く」
先頭に立っていた男性があとから入店してきた男性に声を掛けて近付くと、彼の腕を引っ張って進み始める。
……ん? 今、藤野って言った……?
聞き覚えのある苗字が聞こえた気がして、最後に入店してきた男性をまじまじと見つめる。
百八十は優に超えているであろう長身に、モデルのようにすらりと伸びた手足。襟足を短くカットした黒髪の短髪は前髪を持ち上げたアップバングスタイル。シャープな輪郭も、すっきりとした切れ長の目も、最後に会った三年前から変わっていない。
やっぱりそうだ。この人は藤野匡智――私の六歳上の兄の親友〝匡くん〟だ。
「この店はどの料理もうまいんで、ぜひ藤野さんに食べてもらいたいんですよ~。地元民の俺がすすめるんで間違いないです」
「そういえば赤嶺は沖縄出身だと言っていたな」
赤嶺……? こちらもどこかで聞いたことがあるような気がするけれど今は置いておき、ふたりの会話に耳を澄ませる。
赤嶺さんが元気よく頷いた。
「はい、那覇市出身です。まさにここが地元。今日はたくさん食べましょうね。もちろん藤野さんのおごりで」
「さてはお前、そのために俺をホテルから無理やり連れてきたな」
「あ、バレた」
赤嶺さんがペロッと舌を出しておどけたように笑うのを一瞥し、〝まったくしょうがないやつだな〟とでも言いたそうな呆れ顔で笑う匡くんを見た瞬間、懐かしさが一気に込み上げた。