敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 離婚後も慰謝料請求が可能なことは現役で弁護士をしている高校時代の先輩に連絡を取って確認済みだ。そのときは力を貸してくれるとも言ってくれた。

 杏には今朝、相談したばかりだ。争い事を好まない杏は渋っているようで、あの様子だと今さら慰謝料を受け取りたいとは言い出さないかもしれない。

 杏がそれでいいなら構わない。俺も下手に事を大きくしようとは思っていないから。だが、それだと俺の気がおさまらない。



「ありがとうございました。また来てくださいね」

 カットを終えた俺は川本に見送られて店をあとにする。

 今日はこのあと仕事終わりの川本を狙って声を掛け、一対一で話をするつもりだ。

 杏を迎えに行くことができなくなるので、先に自宅に帰ってもらうよう連絡をいれるためジャケットからスマートフォンを取り出した。

 けれど、杏からメッセージが届いていることに気付く。

 どうやら今夜は急きょ友人に誘われて食事に行くことになったらしい。だから迎えはいらないという連絡だったが、それならそれで俺が迎えに行けない理由を説明する手間が省けるのでちょうどいい。

 すぐに〝了解〟と返事を打ってからスマートフォンをジャケットに戻した。

 川本の美容室の閉店時間は午後六時。それまでは適当に時間を潰すことにする。


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