敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「昨年のクリスマスイブの夜。和磨、彼女とクリスマスツリー見てたでしょ。私も偶然そこにいたからふたりの会話を聞いたの」
「クリスマスイブ……」
そのときの記憶を呼び戻しているのか和磨はしばらく考えるような素振りを見せたあと、思い出したようにハッとした表情を見せる。
「私が不倫相手だと思っていた彼女が和磨の本命で、私と結婚する前からもう関係持ってたんだよね。私、ぜんぶ知ってる」
「あ、あれは、ほら、そうじゃなくて……」
和磨がわかりやすく動揺して視線を泳がせる。一方の私は冷静だ。いや、必死にそう見せかけているだけで、膝の上に置いている両手はさっきからずっと震えている。
「今日、和磨に会いたいと思ったのはもう私に近付かないでほしいって伝えるため。それと、離婚の慰謝料を払ってもらおうと思ったから」
「は? 慰謝料?」
和磨がテーブルにぐっと身を乗り出して叫んだ。その声に、まわりの客の視線が私たちに注がれたけれどすぐに散っていく。
「ふざけんなよ。なんで今さらそんなもん払わないといけねぇんだ」
和磨の口調が荒くなる。表情も見るからに不機嫌だ。でも、私も負けじと応戦する。