敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「離婚の原因は和磨にあるんだから払うのは当然でしょ」
「だったらそんときに言えよ。今さら慰謝料とかお前卑怯だぞ。こっちは店の経営うまくいってなくてただでさえ金に困って……」
言い掛けて和磨が不自然に言葉を止めた。しまったという表情を浮かべた和磨を見て、どうして私に復縁を迫っているのかわかった気がした。
「……そっか。お金に困っているから、また私を騙してお金を取ろうとしてたんだ」
おそらく和磨の図星をついたのだろう。私から視線を逸らし、なにも言い返すことなく深いため息を吐いた。
この男は私をどれだけバカにすれば気が済むのだろう。一度だけでなく二度までも私を騙そうとして。
怒りよりも悲しい気持ちが込み上げてきて、和磨を追い詰めようとしていたさっきまでの勢いが萎んでいく。
「慰謝料だかなんだか知らねぇけど、俺は一銭も払う気はないからな」
和磨が私に視線を戻した。
「大人しく俺に騙されていればいいのに、調子に乗ってんじゃねぇぞ」
バンと大きな音が鳴って、私の肩がビクッと跳ねる。和磨が拳でテーブルを叩いた音だ。
いったい何事だと周囲の視線も再び私にたちに向けられるが、そんなことは気にしていない和磨が苛立ちをさらに私にぶつけてくる。
「つか、お前バカ? 離婚したあとで慰謝料なんか請求できるわけねぇだろ。そんなんもうとっくに時効なんだよ」