敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
まだ時効は過ぎていない。今からでも慰謝料を請求することはできる。そう言い返したいのに、目の前の和磨にすっかり委縮してしまい言葉が出てこない。
自分でちゃんと解決させようって思ったのに。
膝の上に置いた両手をぎゅっと握り締めた、そのとき――。
「――川本さんにとっては残念だけど、時効はまだ迎えてない」
聞き慣れた声がしたかと思うと、隣の席に誰かが座る気配がした。そちらに視線を向けた私の目が大きく見開く。
どうしてここに匡くんがいるの……?
「相手の不貞を理由とした離婚の慰謝料請求権は離婚後三年以内は可能だそうだ」
自然な流れで私たちの会話に入り込んできた匡くんに和磨も驚いた表情を浮かべている。
「あんた……たしか今日の……」
匡くんと和磨は初対面のはず。それなのに和磨はなぜか匡くんを知っているような反応だ。
「杏の知り合いなのか」
和磨の視線が私に向かう。それに答えるより先に匡くんが「夫だ」と口にした。
「杏に慰謝料請求を勧めたのは俺です。離婚の際、そのあたりの話し合いがしっかりとされていなかったみたいだし、離婚原因は明らかに川本さんにあるのだから請求をされてもおかしくないはずだ」
丁寧な口調で匡くんが言葉を続ける。