敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
しばらくすると、和磨がよろよろと椅子の背もたれに背中を預け、弱々しく口を開いた。
「……わかったよ、払うよ。払えばいいんだろ」
「話が早くて助かった。具体的なことはまた改めて連絡する」
匡くんのおかげで、和磨が慰謝料を払うことですんなりと話がまとまった。これ以上ここにいる理由がないので、「帰るぞ」と匡くんが私に声を掛けたときだった。
「ま、待ってくれ」
和磨が私と匡くんを引き止める。
「慰謝料はちゃんと払う。でも分割にさせてくれないか。マジで今は金がないんだ。このままだと美容室の経営が立ちいかなくなる。だから頼む」
背もたれに預けていた背中を離した和磨が、テーブルに手をついて頭を下げる。
出会ってから離婚するまでを振り返れば和磨はいつも私に上から目線で接していた。そんな彼がテーブルに額を擦りつけて懇願している。
ようやく反省してくれたのだろうか……。
「ごめん、杏。お前を騙して結婚したことも謝るから。金もきちんと返す。でも今はまとまった金がないんだ。だから少しずつ支払う形にさせてくれないか」
深く頭を下げたまま「お願いします」と必死に言い続けている和磨に向かって匡くんが呆れたようなため息をこぼす。
一方の私は和磨のつむじを見つめて少し考えてから首を横に振った。