敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「ま、匡くん!」
気が付くと私はガタッと椅子を揺らして立ち上がっていた。
突然名前を呼ばれた彼の視線が訝しげに私を捉える。すると、大きく目を見開いた。
「お前……もしかして、杏?」
どうやら私に気が付いてくれたらしい。懐かしい彼の低音ボイスに名前を呼ばれた瞬間、嬉しさから表情がぱぁっと華やいだ。
三年も会っていなかったのにまさか沖縄で再会するとは思わなかった。今すぐ目の前の匡くんに抱き着きたい気持ちをぐっとこらえる。
「えーっと……、藤野さんの知り合いですか」
匡くんの隣にいる赤嶺さんの視線が不思議そうに私を見つめる。一緒に来店した女性たちも何事かと立ち止まり、私たちに視線を送っていた。
「赤嶺。悪いが先に席について始めていてくれ。俺はあとで行くから」
匡くんはそう言って赤嶺さんの肩をポンと叩いた。りょーかいです、と赤嶺さんは敬礼ポーズ付きで返事をすると女性たちと共に奥にあるテーブル席に向かっていく。
その姿を見送った匡くんが私の対面にある椅子の背もたれに手を置いた。
「ここ座ってもいい?」
「うん、どうぞ」
匡くんが腰を下ろしたので、私も椅子に座り直す。
ちらりと匡くんに視線を送ると、彼もまた私を見ていたようで視線が絡んだ。