敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「やっぱり慰謝料はいらない」
和磨が勢いよく顔を上げる。匡くんはなにも言わなかった。
「私、お金が欲しいわけじゃないから。和磨に反省してほしかっただけ」
「反省してる。めちゃくちゃしてる。本当に悪かったと思ってる」
もしかしたら口先だけの謝罪かもしれない。でも、和磨の様子を見た限り、かなり追い込まれているのは伝わってくる。
本当に今はお金がなくて慰謝料を一括で払える余裕がないのだろう。分割の支払いだって本当は厳しいのかもしれない。
和磨のことは許せないけれど、私はそこまで冷酷にはなりきれなかった。こういう甘さがあるから和磨に漬け込まれて騙されたんだと思うけど、こういう性格なのだから仕方がない。
「慰謝料は請求しない。だからもう二度と私の前に現れないで」
「わかった、約束する」
和磨が首をぶんぶんと縦に振って頷いた。椅子から立ち上がると私に向かって深く頭を下げる。
「俺が悪かった。すみませんでした」
和磨の声に、店内にいる客と従業員の視線が私たちに向かった。それでも気にせず頭を下げ続けている和磨に「もういいよ」と私は声を掛ける。
「これでもう終わり」
はっきり告げると、それを聞いた和磨がゆっくりと顔を上げた。すると、匡くんの手が私の腕を掴んでぐっと引き寄せる。
「帰るぞ」
そのまま引っ張られるようにして店内を後にした。