敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「今日は沖縄便が最後のフライトだからこのままこっちに一泊だ。明日の朝に出発して、福岡経由で東京に戻る予定」
さらりと付け足された言葉で彼の職業をようやく思い出す。
「そっか! 匡くんパイロットだよね」
「お前、忘れてたのか」
「覚えてたよ。今、思い出したの」
「それを忘れてるって言うんだ」
やれやれと匡くんが深いため息を落とした。
私がまだ高校生の頃だっただろうか。すでに社会人になっていた匡くんから『パイロットになった』という報告をされたことがある。たしか誰もが名前を知っているほど大手の航空会社〝ジャパンウイングエアライン〟に勤務しているはずだ。
あれ? それって私が乗ってきた飛行機だ。
私は足元のカゴに入っているバッグを掴んで膝の上に乗せると中身を探る。そこから使用済の航空券を見つけて確認すると、匡くんに見えるよう顔の前に突き出した。
「これ、私が乗ってきた飛行機のチケット。十四時半羽田発那覇空港行きのJWA四七五便」
匡くんは私の手から航空券を取ると、まじまじと見つめがら「奇遇だな」と呟く。
「俺もこれと同じ便でここに来た」
「と、いいますと?」
「杏が乗った飛行機を飛ばしていたのは俺ってことだな」
一瞬、目をぱちぱちと瞬かせてから「すごいっ!」と声が飛び出た。
こんな偶然あるのだろうか。驚いて空いた口がふさがらない。