敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 そんな私とは対照的に匡くんは冷静に「揺れただろ」と、沖縄に来るまでの飛行機の様子について口にする。

 自分が飛ばしていた飛行機に私が乗っていたという事実に少しも驚く素振りを見せないこの落ち着きよう。感情を剥き出しにしない物静かなところは相変わらずのようだ。

「けっこう揺れたね。こわくて生きた心地しなかったよ」
「大袈裟だな」
「本当だもん。私、飛行機苦手だから」
「知ってる。高校の修学旅行で乗ったのが揺れたんだろ」

 匡くんにも話したことがあったかもしれない。

 当時、修学旅行から帰ると兄と匡くんが家にいて、私はふたりに向かって沖縄からの帰りの飛行機が悪天候で揺れた恐怖を長々と喋り続けた覚えがある。そのときのことを匡くんも覚えていたらしい。

「まぁでも今回のあの揺れは想定内だから」

 匡くんが椅子の背もたれにゆったりと背中を預ける。

「あれでも揺れの少ない航路を選んでここまで来たんだからな」
「そうなの?」
「そうだよ。俺たちだってただ飛行機を飛ばしているだけじゃないんだ。当日の天候やその他いろいろな条件を考慮して、そのときの最適だと思うフライトプランを事前に決めて飛んでるから」

 そう言って匡くんは手に持ったままだった航空券を私に返した。

「離陸後の機内アナウンスでも言ったろ。この先揺れるけど問題ないって」
「でも、揺れるのはやっぱりこわいよ。というかあのアナウンスって機長がしていたよね……えっ、匡くんって機長⁉」
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