敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「そうだけど」
彼は涼しい顔で頷いた。
「向こうの席でメニュー表を広げながら賑やかに話しているのが副操縦士で、女性たちは客室乗務員」
少し離れたテーブル席に視線を送りながら匡くんが説明してくれた。
彼らのリーダー的存在が機長である匡くんなのだろう。兄と同じ三十四歳なのに、たくさんの乗客を乗せる飛行機の機長をすでに任されているなんて。
子供の頃からずば抜けて優秀な人だったけど、もしかしてパイロット界でも匡くんはエリートなのだろうか。
「それにしても、まさか杏が俺の職業を忘れているとは思わなかったが、お前はむかしから忘れっぽいからな」
背もたれから背中を離した匡くんがテーブルに頬杖をつく。
「それに、飛行機嫌いも直ってないんだな」
「それについては一生克服できそうにないかも」
人生二度目の飛行機も一度目と同様に悪天候で揺れるとは思わなかった。もしかしたら私は飛行機と相性があまり良くないのかもしれない。
「今日も離陸前からずっと心臓バクバクだったし、やっぱり飛行機は乗りたくない乗り物ナンバーワンだね」
「そんなこと言って、まだ帰りの便あるのにどうすんだよ」
本当だ、どうしよう。明日のことを思うと今から憂うつな気分になる。
「そんなに飛行機乗りたくないなら、お前はもう海を泳いで帰るしかないな」
「え、やだよ」
そんなの無理に決まっている。