敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
その後はレーダールームの管制官からの誘導を受けながら航空路に向かい、順調に上昇を続けてある程度の高度に達したところで自動操縦に切り替えた。
予定の航路を飛び始め、タイミングをみて機内アナウンスを入れる。
「ジャパンウイングエアライン四七五便をご利用いただきまして、まことにありがとうございます――」
目的地である那覇空港の予定到着時刻は午後五時半。
現在入っている情報によると接近中の台風の影響で現地の天気はあまり良くないとのこと。着陸に支障が出なければいいのだが。
そういえば、親友の妹の結婚報告を受けたのも台風の近付く沖縄便のフライトの日だった。
たしかあの日は地面すれすれまで雲が下がっていて、肉眼で滑走路を確認できずにダイバート――別の空港に飛行機を着陸させた。
それが昨年の八月のことだから、あれからもう一年近く経つのか。
杏は元気にしているだろうか。
そろそろ子供ができたという報告を受ける日がくるのかもしれない。
そうしたら俺はたぶん、結婚報告を受けたときのようにひどく落ち込むんだろうな。
「――飛行にはまったく影響がございませんのでどうぞご安心ください。本日はご搭乗まことにありがとうございます」
妹のように可愛がっていた女の子の顔をふと思い浮かべながら機内アナウンスをしめくくる。
感傷的になっている場合ではないとすぐに思考を切り替えて、フライトに集中した。