敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
匡くんの冷たい冗談に頬を膨らませてじとっと睨むと、彼は口角を持ち上げてさも愉快そうに笑った。
こうやって私をからかっては反応を見て楽しむようなちょっぴり意地悪な人だけど、私たち乗客を悪天候の中でも無事に沖縄まで連れてきてくれた人でもある。
ちらりと匡くんの手に視線を送る。この手にたくさんの人の命を預かって、あんなに大きな機体を飛ばしているのだから匡くんのパイロットという職業はすごいと思う。
尊敬の念を抱きながら見ていると、彼の視線がふと私の手元に向かうのがわかった。
なにを見ているんだろう?
気になって私も自分の手元に視線を落とすと、ネイルを施した指先が目に入った。もしかして匡くんはこれを見ているのかもしれない。
「かわいいでしょ」
よく見えるよう両手を顔の位置まで持ち上げた私は、手の甲を匡くんに向けて自慢のネイルを見てもらう。
今日のネイルは深みのあるボルドーカラー。それだけでは少しつまらないので、ゴールドパーツでドットに仕上げて、中指だけがレオパード柄になっているのがポイントだ。
もちろん自分で施したものなので、自慢げに匡くんに見せたものの興味なさそうに視線を逸らされる。
「俺にはその良さがよくわからないな」
「ひどいっ!」
共感できなくても嘘でもいいからここは可愛いと言ってほしかった。いい意味で正直、悪い意味で無神経な人だ。
むかしは私のネイルを見て可愛いと褒めてくれたのに……。