敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
好きと言えない理由
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『匡くんなら絶対になれるよ。パイロットになったら教えてね』
父親が管制官だったこともあり、子供の頃から航空関係の仕事には興味があった。
大人になったら父と同じ職に就きたい。あの頃の俺はパイロットになりたいなんて微塵も思っていなかった。
そんな俺を変えたのはひとりの女の子のたったひと言だ――。
十歳の頃に父親の仕事の関係で東京に越してきた。
同じマンションの隣に住む飛行機好きの同級生・南沢慎一と仲良くなり、中学に上がると羽田空港の展望デッキにふたりでよく飛行機を見に行っていたのを覚えている。
中学三年の夏休み。いつものように飛行機を見に羽田空港へ行こうとすると、慎一が六歳下の妹の杏を連れてきた。
慎一とはお互いの家を行き来する仲ということもあり、妹の杏とももちろん面識があったし、ひとりっ子の俺にとっても杏は妹のように可愛い存在だ。
杏は兄である慎一と性格がそっくりで、人見知りせず誰とも仲良くなってしまうし、明るくて元気いっぱいでいつも楽しそうに笑っている。
他人と関わるのがあまり得意ではない俺だけど、そんなことお構いなしにグイグイと距離を詰めてこようとする南沢兄妹のおかげで俺たちは仲良くなれたのだと思う。