敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 私と匡くんの間には恋愛感情はなく、結婚した理由も普通とはだいぶ違う。そんな私たちに子供を望まれても期待に添えられるかどうかわからないから……。

 まぁそこのところはまだあまり深く考えなくてもいいだろう。

 とりあえず今は匡くんとの新生活を整えなければならない。

 港区にある地下一階、地上二十四階建てのラグジュアリーなタワーマンションが今日から私の住処になる。が、すでに場違い感が半端ない。

 こんなところに私が暮らしてもいいのだろうか……。

 光沢を放つ大理石の床とシャンデリアがぶら下がる吹き抜けの天井の豪華なエントランスに足を踏み入れた途端、別次元に迷い込んでしまったのではないかと気後れした。

 エレベーターホールに向かうときにすれ違った、整った身なりの住人たちからは富裕層のオーラがばりばりに出ていて居心地が悪くなった。

 そんな私とは違いこのセレブな空間に違和感なく溶け込んでいる匡くんはもうそちら側の人間なのだろう。彼との間に見えない壁のようなものを感じてしまった。

 匡くんの自宅は二十二階にある2LDK。広々としたリビングには必要最低限の家具しか置かれておらず、すっきりと洗練された印象を受ける。

 窓際に置かれた観葉植物が匡くんのイメージには合わないと思ったけれど、どうやらお父さんからの贈り物らしい。

 樹木に接することでストレスホルモンが減少してリラックス効果があり、植物の緑には目の疲れを緩和してくれる働きなどもあるらしい。

 リビングの他の二部屋は寝室と書斎兼トレーニングルームになっているそうだ。
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