敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「あれは、えっと……ほら、私も演技したの」
「それなら杏も女優に向いているんじゃないか。演技には見えなかったが」
そこを指摘されると言葉に詰まる。なぜならあのときの私は匡くんの言った通り演技なんかしていない。
わりと本気で答えてしまったのだが、それはバツイチの私を心優しく迎えてくれた匡くんのご両親に感動したから。ふたりが望むなら孫を見せてあげたいとあのときは本気で思ってしまった。
「杏が俺の親に孫を見せたいなら俺は別にそれでも構わないが」
「と、いいますと?」
「お前と子作りしてもいいってことだ」
「ええっ⁉」
先ほどからブリのお寿司をずっと手に持ったまま思わず椅子から飛びのいてしまった。
「な、な、なに言ってるの匡くん。本気? 子供がどうやったらできるか知ってる? こうのとりが運んでくるんじゃないんだよ」
「それくらい知ってるに決まってるだろ」
「えっ、じゃあ私とそういうことできちゃうの?」
さっきは妹みたいな私に欲情して襲ったりしないと言ったはずだ。
動揺する私とは違い、匡くんは涼しい顔でホタテのお寿司を口に入れた。お茶をすすった彼がじっと私を見据える。
「必要とあれば俺は抱けるよ、杏のこと」
「ひ、必要としていません」
顔を真っ赤にさせながらお断りすると、そんな私の様子が面白かったのか匡くんはぷっと吹き出して「あっそ」と答えてお茶をすすった。