敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
夕飯の席でそんな話をしたせいかもしれない。就寝の時間になると、匡くんをやたらと意識してしまった。
同じベッドで眠ることを渋々了承したものの、これは眠れる気がしない。
「そんな端っこにいるとベッドから落ちるぞ」
匡くんは普段から夜更かしをしないらしく規則正しい時間に寝室に向かった。
私も特にやることもないし、引っ越し作業の疲れで彼と同じタイミングでベッドに入ったのだが時間をずらせばよかったと後悔する。
匡くんが寝たあとでこっそりとベッドに忍び込めばよかった。お互いにまだ起きた状態で同じベッドに寝転がるこの状況がたまらなく恥ずかしい。
ベッドの端で匡くんに背中を向けているがどうしても意識してしまう。
「杏、もっとこっち来いよ」
まるで私を誘うように告げられた言葉にガバッと体を起こして匡くんをじっと睨む。そんな私に匡くんが苦笑した。
「襲わないって。そんな隅にいると落ちるからもっとこっち来ればいいだろって言ってんの。つか、このお前のぼろぼろの抱き枕がじゃまだ」
「あー、それ取っちゃだめ。そこが境界線なの」
匡くんが退けようして掴んだ抱き枕を奪い返して元の位置に戻す。私と匡くんのちょうど真ん中に置かれたそれが大事な境界線なのだ。