敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
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それから二日後の土曜日。
お互いがカレンダー通りの勤務ではない私たちの二連休が終わり、今日からふたりとも仕事なのだが匡くんは私よりもあとに出社するらしい。
だからといってのんびりと寝ているわけではなく、規則正しい時間にしっかりと起きた彼は日課になっているというジョギングを済ませてから朝食まで作ってくれた。相変わらず完璧な人だなと頭が下がる。
朝食をありがたくいただいた私は仕事に出発する。玄関でパンプスを履いていると、匡くんがわざわざ見送りにきてくれた。
「新婚らしく行ってきますのキスでもしとくか」
「しません」
私をからかうための冗談であることはわかっているので、いちいち過剰に反応したりせず冷静に断った。
匡くんは新婚と言っているが正確には私たちはまだ入籍していない。婚姻届を提出するのは約二週間後のクリスマスの私の誕生日にしようと匡くんに提案された。
彼が言うには『これなら杏でも覚えていられるだろ』とのことだが、遠回しに忘れっぽいと言われた気がしてムッときた。
「じゃあな、杏。いってらっしゃい」
私の頭に手を乗せた匡くんが、高い背を屈めるようにして私の顔を覗き込む。
普段はきりっとした目元がまるで愛おしいものでも見ているかのように優しく細められ、思わずドキッと心臓が跳ねた。
匡くん相手にときめいてしまうなんて……。