敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
私は慌てて視線を逸らした。
実際の匡くんは私を愛おしくなんて見ていないのだろうけれど、なぜかそう感じてしまった。
一緒に暮らすようになってまだ三日目。どうも最近の私はちょっとおかしい。匡くんを意識しすぎてしまっている。以前の私ならこんなことはありえなかったのに……。
原因はわかっている。同居初日に匡くんから〝抱けるよ〟なんて言われたからだ。
でも、ああは言っていたけれど彼にとって私はやっぱり妹のような存在なので実際に手を出してくることはないだろう。
同じベッドで眠っているけど今のところ身の危険を感じたことはない。私が持参した抱き枕を真ん中に置いていることもあり自分のスペースが保たれているおかげか、私はなんとか安眠できている。
匡くんのマンションから私のネイルサロンのある街までは電車で十五分ほど。
お店の入っているマンションに午前九時に到着すると、まずは店内の掃除から始めた。そのあとは本日の予約のお客様の顧客ファイルを用意し、メニューに合わせた道具を準備。
午前十時にサロンが開くと、本日最初のお客様をお迎えする。
「杏ちゃん、こんにちは」
細身でスラリとした体形を生かすようなタイトスカートに、すっきりとしたノーカラーコートを羽織った上品な装いで現れたのは常連の麗奈さんだ。
艶のある黒髪ロングヘア―は今日もきれいに巻かれているし、化粧もばっちり。こちらが見惚れてしまうほど麗奈さんは今日も美しい。