敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「私もこういうキラキラっとしていたり、グラデーションを入れてみたり、ストーンを付けてみたりするネイルがしたいんだけど、お仕事柄それはちょっとマズいのよね。だからいつものメニューでお願いします」
残念そうに頬を膨らませる麗奈さんに「かしこまりました」と答えて施術を始める。
客室乗務員をしている麗奈さんのネイルはピンクベージュ系のようなナチュラルな色がほとんどで、たまに色味をおさえた穏やかなカラーを使ってグラデーションを作ることもある。
今日もまずは爪のケアから始める。これをするとしないとではネイルのもちも違ってくるのだ。
「そういえば、最近とても衝撃的なことを知ったのよね」
爪の長さを整え、クリームを指と爪の間に塗ってマッサージをしていると、麗奈さんがふと思い出したように口を開いた。
彼女はお喋りが大好きらしく、同じくお喋り好きの私とは話が合い、施術中はずっとふたりで喋り続けている。年齢もふたつしか違わないので話題も合うのだ。
「衝撃的なことってなにがあったんですか」
マッサージを終えて爪のまわりのツボを優しく押しながら尋ねると、「それがね」と麗奈さんの声がひと際大きくなる。
「うちの職場に最年少で機長に昇格したエリートパイロットがいるんだけど、彼が近々結婚するらしいのよ」
「パイロット……」
思わず反応してしまう。思い浮かぶのは今朝、私を見送った彼の顔。
そういえば麗奈さんが客室乗務員をしているのは知っているけれど会社名までは聞いたことがなかった。