敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

「気になるのよね~、藤野さんの結婚相手……あ、藤野ってエリートパイロットのことね。杏ちゃんの知らない人の名前を突然出しちゃってごめんね」
「あ、いえ、大丈夫です」

 あははと乾いた笑いがこぼれる。

 やっぱり匡くんじゃん……!

 私めちゃくちゃその人のこと知っています。そして結婚相手は私です。と、麗奈さんに打ち明けることはこの話の流れを考えるとできなかった。



 本人のいないところで話題に上がっていたとは知らない匡くんから電話が掛かってきたのはその翌日のこと。

 ベッドに置いていたスマートフォンが突然鳴り出したことに驚いて慌てて目を覚ます。

 匡くんは昨日から国際線のフライトに出ていて四日ほど家を空けるので、昨夜は大きなベッドにひとりで広々と眠ることができた。

 熟睡していたはずなのに目覚まし時計が鳴るよりも先にスマートフォンが鳴ったことに驚いて飛び起きてみれば、着信を知らせるディスプレイには匡くんの名前が表示されている。

 時刻はまだ朝の六時前。こんなに早い時間からいったいどんな用事で電話を掛けてきているのだろう。
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