敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

「……もしもし」

 寝起きなのでだいぶテンションの低い声が出た。電話の向こうの匡くんが、普段と変わらず落ち着いた声で言葉を返す。

『おはよう、杏。寝てた?』
「寝てたのに起こされた」
『そうか。モーニングコールのつもりだったからちょうどいいな』

 ちょうどよくないよ。私はまだあと一時間は寝るはずだったのに。

「こんなに朝早くからどうしたの?」

 ふわぁと欠伸がこぼれてしまう。眠たくてまだ目がしょぼしょぼしているし頭もぼんやりしている。

『いや、特に電話した理由はない。寝る前に杏の声が聞きたかっただけだ』
「寝る前……? そっか、匡くん今日本にいないんだっけ」

 国際線の便に搭乗すると言っていたけれど行き先はどこだったかな。思い出していると『ロンドンだよ』と、匡くんが教えてくれる。

 時差があるからそっちは今何時なのだろう。そういうことに詳しくないのでわからないけれど、寝る前と言っていたから夜なのかもしれない。

 逆にこちらは早朝で、寝起きの私はまだ眠い。スマートフォンを耳に当てたまま、うつらうつら船を漕いでいると『杏』と匡くんに名前を呼ばれてハッと目を開ける。

『お土産なにか欲しいものあるか。買って帰るけど』
「そんな時間あるの?」
『あるよ。明日は一日フリーだから』

 ロンドンなんて行ったことがないからお土産と言われてもとっさに思い浮かばない。
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