敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「和磨と私が結婚前から付き合っていたことにも気付いてなかったもんね。ほんと、バカな女」
彼女が鼻でせせら笑うと、和磨もまた冷ややかな笑みを浮かべた。
「そういや杏のネイルサロンこの辺りだったな。あんなお人好しに経営は向かないからもうとっくに潰れているかもな」
「あはは。確かにそうかも~」
馬鹿にするように笑う和磨と彼女の声を聞きながら、ようやく体を動かせた私は一目散に走り出した。
ぶわっと瞳から溢れる涙を両手でぬぐいながらどこに向かうでもなくとにかく走る。すれ違う人たちが泣きながら走る私を見て不思議そうに振り返るけれど、そんなことは気にならなかった。
電車に乗る予定だった駅からどんどん遠ざかっていき、しばらくすると人通りの少ない狭い路地に出て走るのをやめた。
さ迷うようにとぼとぼと歩く。
「悔しいっ……」
和磨の彼女が私のことを『バカな女』と、あざ笑う声が耳に残って離れない。どうしてあんな男に騙されて結婚をしてしまったのだろう。
「ううっ……」
足の力が抜けていき、その場に泣き崩れた。