触れていいのは俺だけだから



それから一ヶ月ほどが経った。杏菜の髪は色が落ち、少し伸びている。鏡を見て、杏菜は髪に触れながら「そろそろカットの予約、しなくちゃね」と呟く。

思い立ったが吉日と、杏菜はスマホを取り出して「charme」に電話をかける。

「もしもし、お電話ありがとうございます。charmeです」

明るい声の女性が電話に出た。杏菜はカットとカラーの予約をしたいことと、日にちを話すと、担当してほしい人がいるかどうかを訊ねられる。杏菜の中ではたった一人しかいない。

「藤木さんでお願いします」

杏菜はそう言ったのだが、女性から凌はその日休みだと伝えられる。だが、その日以外は予定が入っている。いつも担当してくれる人ではないのは少し残念だが、杏菜はその日に予約を入れることに決める。

「かしこまりました。では六月の三十日、カットとカラーでお待ちしております」

「はい、お願いします」

凌に会えないことは少し寂しいものの、このまま髪をボサボサにしたままにするわけにもいかず、気持ちを切り替えるために音楽を聴く。
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