触れていいのは俺だけだから
恐る恐る杏菜は後ろを振り返る。そこには、黒いTシャツにジーパンを履いた凌がいた。「charme」でしか凌とは会ったことがないため、杏菜は驚いてしまう。

「藤木さん?こんばんは、お久しぶりです」

挨拶をしたものの、凌は何も言わずに近付いてくる。無表情のその瞳には重い闇を感じ、杏菜は恐怖から逃げようとしたものの、お腹に衝撃が走って目の前が真っ暗になった。



お腹の鈍い痛みに杏菜は目を覚ます。見知らぬベッドに杏菜は寝かされていた。

「ここは……」

ヘアスタイルに関する本ばかりが並んだ棚に、髪を切る時に使うハサミなどがテーブルには置かれ、部屋の隅には綺麗に髪を整えられたマネキンがある。

「気が付いた?」

ドアが開き、凌がニコニコしながら入ってくる。杏菜は慌てて体を起こし、「ここはどこですか?」と訊ねた。

「俺がカットの練習するために使ってる部屋だよ」

「あの、どうしてあたしはここに連れて来られたんですか?」
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