八千代くんのものになるまで、15秒




朝、玄関の扉を開けると、ちょうど隣の部屋の玄関扉もガチャリと音を立てて開いた。

眠そうな顔をした瑛士が出てきて、私と目が合うと「おー」なんて、ゆるく挨拶をする。



「おはよう、昨日遅かったの?」
「んーや、クラスの奴と電話してた」

「ふぅん。相変わらず人気者だね」



癖っ毛の焦げ茶色の髪。
そんな瑛士の髪の毛がゆらゆらと揺れている。

瑛士のこの癖毛の髪が、私は意外と好きだったりする。

ふわふわしてて犬みたいだから。


マンションから出て、いつものように瑛士の隣に並びながら学校へと向かう。



「人気者なのは俺じゃなくて梓希だろ」
「え?八千代くん?」



着いた駅の改札を抜けて、いつもの電車に乗り込んだ。

手すりに掴まりながら、「そー。お前の推し」なんて、瑛士があくび混じりに言う。
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