八千代くんのものになるまで、15秒


「……あの、わたし、」
「ばーか。」

「へ……」



無意識に足元に落としていた視線をバッと上げると、


「いたっ……!?」


なぜか、デコピンをされてしまった。
……いやほんとに、なんでっ?



「ちょっと、何なのさっきから……!」



急に真剣な顔するしデコピンしてくるしっ。



「冗談に決まってんだろ」
「はぁ?」

「からかっただけだよ。騙されてやんの」


額を抑えながら、「冗談……?」と呟く。
じゃあさっきの言葉は、全部嘘?



「なんだぁ……ビックリしちゃったじゃん」



はぁ、と息を吐く私に、瑛士は笑った。

笑って、それから私から目を逸らして、扉の外を流れる景色に視線を移して。


そんな瑛士の横顔が、少しだけ寂しそうに見えたのは、私の気のせいなんだろうか。





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