八千代くんのものになるまで、15秒
「じ、仁さん?」
驚いた顔をしながらカウンターの奥から姿を見せたのは、爽やかな白シャツを着た八千代くんのお兄さんだった。
「あ?おまえ、前も梓希と一緒にいた……」
私のことを指差して、ぐぬぬ、という顔をして何かを考えている様子。
こ、これ、あれかな……名前を思い出そうとしてるのかな……。
「あの……倉木です。倉木蓮……」
「あぁ、そうだ、蓮だった」
「おまえら何してんの」って、私と八千代くんを交互に見ながらそう言う仁さん。
ちらり、八千代くんに視線を移すと、「騒がしい奴でごめんね」と、彼は困ったように笑う。
「倉木に俺のバイト先紹介しようと思って」
「あー?」
「ここ静かだし、ゆっくり話もできるから。忙しいなら帰るけど」
「嫌味かよ。客なんて1人もいねぇよ」