八千代くんのものになるまで、15秒


その手にはいつものように文庫本が。
ただ、前まで付けられていた黒革のカバーはない。

夏休み明けから数日。
ここのところ梓希くんは、百合さんから貰ったというカバーはせずに本を読んでいる。



「梓希くん、ずっと聞こうと思ってたんだけど、ブックカバーはどうしたの?」

「あぁ、新しい本に付け替えるの忘れてからなんとなくずっとこのままにしてる」



なんてことないように梓希くんはそう言った。
付け替え忘れたって……今まではそんなことなかったのにな。急にどうしたんだろう?


首を傾げる私に、彼はただ笑うだけだった。





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