八千代くんのものになるまで、15秒


去年、梓希くんが初めて私に笑いかけてくれた場所。
私が、梓希くんを目で追うようになったきっかけの場所。



「梓希くん、あのさ、」



階段をのぼりきったところで、私は口を開いた。



「あの、抱きしめてもいい、ですか」



こんなこと、自分から言ったことないから、
とても緊張する。
恐る恐る梓希くんに視線を移すと、彼は一瞬目を見開いて、


「っ」


そのまま私の腕を引いてぎゅっと抱きしめてくれた。
久しぶりに梓希くんの石けんみたいな香りに包まれて、それだけで幸せな気持ちになる。



「……コンテストにでなよって言ったの、やっぱり後悔してたの」
「蓮、」

「本当は、出て欲しくないなって思ってた」
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