八千代くんのものになるまで、15秒
みるみる赤くなる私に、梓希くんは可笑しそうに笑う。
「放って置くわけないでしょ。可愛いこと言うね」
「う……」
だ、だって。
「じゃあ、そろそろ戻ろうか」
もうすぐで、文化祭も終わる。
きっと軽音楽部の演奏も、最後の一曲になったところじゃないかな。
私から離れて、梓希くんは階段を降りようと体の向きを変えた。
「っあ、まって、」
梓希くんの袖をくいっと引っ張る。
ま、まだ、もう少しだけ。
「……キスして、梓希くん」
大胆な私の言葉に、彼は一瞬目を見開いた。
見開いて、それから、意地悪く笑った。
「……顔あかい」
「っ、だって、」
「だって、なに?」
一歩私に近づくから、思わず後ずさる。
背中にトンと冷たい壁がぶつかって、逃げ道はないんだと実感する。