八千代くんのものになるまで、15秒
「泣きたいんじゃねーの?」
舞台の上で、1人だけ、何かを諦めたように笑ってたから。
自分を見ているようで、なんだか放っておけなかった。
「梓希のこと、好きだった?」
「……」
「や、いーや。デリカシーなかった。ごめん」
日向が階段から落ちそうになったところを、梓希が助けた話は知っていた。
クラスメイトがそう言っていたのを聞いたし、何より、日向が梓希にお礼を言いに行ってたのを見た。
蓮も日向も、梓希に助けられたんだ。
あいつ、いよいよ本物のヒーローだな。
「……そう思うってことは、藤田くんは、倉木さんのことが好きだったのかな」
小さく笑って冗談ぽく日向は言った。
「仲間だと思って声をかけてくれたんだね」と、紙パックにストローをさしながらそう続ける。